高橋妙子のちりめんチョッキ展
2022.10.4(火)~9(日)
12:00~18:00(最終日17:00)
布切れの時間
仕事柄、いろいろな工芸品に出会うことがあります。そんな時、自分が作るとしたら何が良いかと考えることがあります。一番よく見たり、話を聞くのは陶芸です。しかし土(粘土)から形を作っていくのと手の感触がヌルヌルするのは、少々抵抗感があります。最もその苦手さにハマるということもあるのですが。ともあれ、やってみたいのは染色です。先染めされた縦糸と横糸を唯々、延々と織っていくという積み重ねがいいと思っています。それとできた布の風合いというか手触りが、やはり好きなのです。
布には完成までに時間がかかります。もちろん陶芸や漆芸でも時間がかかるのは同じでしょうが、布は単純なことの繰り返しが多い分、時間というものを意識せざるを得ません。振り子のように杼が左右に行き交った分、時間が集積されているように思えるのです。できた布に染色がされても、その時間量への感じは増えることがあっても減ることはありません。糸が紡がれ染められ織られ、さらに使われたとなれば、時間とともにその間の人々の思いも集積されているように思えます。パッチワークとなると、そんな布の部分と部分がひとつに縫い合わされて、それぞれの集積された時間は何倍にもなるのでしょう。隣り合った布切れは全く違った旅をしてきたはずです。時間と時間がぶつかり、やがて折り合いをつけながら馴染んでいくのでしょう。そんなことを考えながら、私の布への思いはさらに時間の奥の方へ沈んでいく気がします。 菅谷富夫(大阪中之島美術館長)